象のストーリー
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宿の1階には、アーティスト 田中健太郎さんの象の絵が飾られています。
その象にまつわる「おとぎ話」を、ここに綴っていただきました。
その昔、葉山には一匹の象がいた。
元々住みついていたのか、何処からか流れ着いたのかは誰もしらない。
まだ象という呼び名もない時代の話である。
町の者たちは、その見た目が余りにも大きく白い山の様なところから、白山(ハクサン)と呼んでいた。
白山はたいそう気味悪がられ、厄介物として扱われていた。
子供たちからも、石投げの的にされる事もしばしばであった。
ただ白山はそれに怒る事もなく、ジロッとひと睨みすると、
山の様に動くことはなくじっとしているのであった。
その日は暑い夏の日だった。
葉山の町が大火事に見舞われたのである。
後に葉山の大火と言われる日でもある。
夜明けから山ではじまった火は、あっという間に町まで降りて来て、
海までをも焼き尽くそうとしていました。
町人たちは必死に火を食い止めようとしましたが、
凄まじい炎の中ではまさに焼け石に水で、どうする事も出来ませんでした。
そんな時、いつも町人たちにいじめられていた白山が海から体一杯に水を蓄え、
長い鼻から町中にまき散らし、人々を大きな背中に乗せ、火のない場所まで運んでやりました。
三日三晩燃え続け、町はほとんどが焼き尽くされましたが、
奇跡的にも軽いケガ人が出た程度で済みました。
その時町人たちを運んだのが今でも残っているこの蔵であり、
それからは町人たちも態度を改め町の皆んなで助け合いながら暮らしたそうだ。
白山が亡くなってからも、親から子へ、その子へとこのお話は語り継がれていく様になった。
今でも白山が訛って葉山になったと云い張る人も、少なくないそうである。
葉山のお話より」
田中 健太郎